初詣

 坂を上り始める。まだ暗いが、元旦ということもあり、すでに灯りがついている家もある。

 古い住宅街のはずれで坂は終わり、そこからは急な階段。バケツに井戸水を汲み、それを両手に持ち、さらに上る。

 ここは、高台にある墓地。一番上の方の、先祖の墓を目指す。

 辺りには誰もいないけど、何となく視線を感じるのは気のせいか? これだけ墓があるのだから、誰かが見ていても不思議じゃないよな、と、いつもとはちょっと違う解釈をする。

 階段を上ることで体が温まり、汗ばむ。
 そのとき、一陣の風が吹き、木がざわめく。背中に一瞬、冷たいものが・・・。「今年こそ、ちゃんと親孝行を・・・ だから、許してね。」なんて、心の中でつぶやく。

 墓の前。
 墓石にワックスをかけ、持ってきたタオルで乾拭きする。最初のうちは、見えない視線の様なものが気になるが、やっているうちに夢中になり、忘れる。その頃、周りが明るくなり始める。

 手を合わせ、持って来た缶コーヒーを飲む。山を駆け上がる風が、心地よく頬をなでる。さっきとは、全く違う感覚だ。高台から眺める瀬戸内海の夜明けは、会うことが出来なかった先祖が見ていたものと、きっと同じであり、そう思うと、胸が熱くなる。

 自分なりに満足し、階段を下りる。視線も木のざわめきも、気にならない。

 階段の下では、他の参拝者が水を汲んでいる。知らないその人と新年の挨拶・・・  こんなに心地の良い挨拶を交わしたことって、そんなに無いんじゃないか?

 上っている最中に心の中でつぶやいた事を、今年はしっかり実践・・・ 少なくとも、ちゃんと心に留めておこう・・・ と考えながら、坂を下る。

 人情が残るこの街は、いつも通り目覚めていた。

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