文化祭で

 「最高学府」として自他共に認める大学の文化祭は、例年以上に賑わっていた。

 ごった返す模擬店街を、母の車いすを押しながら歩いている途中、静かそうな女子学生が私たちに声をかけ、チラシをよこした。見ると、喫茶店兼合唱グループの発表をやっていると書かれている。特に興味はなかったが、小声で、やや恥ずかしげではあるものの、熱心さを感じられた彼女の態度に敬意を表し、建物の場所を聞いて、別れた。

 そこは、階段を上がればあっという間に入れる建物だったが、後付のスロープに従うと、ちょっと距離があった。何とか入口にたどり着き、やはり人で混み合った建物に入ると、目的の場所はすぐそこにあった。

 女子学生の勧誘とは裏腹に、そこでの企画はかなりの盛況で、満席に近い。面食らった気もしたが、ここまで来たのだから・・・と入ってみた。ジュースと洋菓子の食券を購入するのも、慣れない学生たちがやることだから、要領が悪い。「頭は良くても、やはり学生なんだな」と心の中で苦笑して待っていると、後ろからさっきの女子学生がやってきた。待っているこちらを見て、「お待たせしてすいません」と言った彼女の顔は、どことなく明るい。私たちの座れそうな場所を確保し、車いすの保管場所まで心配してくれた後、彼女は再び外へ出て行った。どうやら、先ほど案内された場所から、建物の入口が見えていたらしく、私達の姿を見て走って来たらしい。

 気持ちのすべてはわからないが、勧誘した相手が実際に店へ足を運んだことが、うれしかったのかな・・・ と想像した。

 たくさんある模擬店を眺めて気がついたのは、「物を売る」ことに、あまり熱心さを感じないことだった。「いかがですか~」の声こそ掛かるものの、視線はそっぽを向いている。店先で、身内のグループだけで談笑していたり、売り物と思われる品で食事を始めていたりする。文字通り「祭」だから、自分たちが楽しめればいいのだろうが、文化祭は「発表の場」でもある。物を売る「発表の場」を求めたからには、熱心に売ってほしいと強く思った。

 そんな中、彼女の態度は私にとって新鮮だったし、こちらまでがうれしくなった。

 日ごろから、製品や技術を売っている私だが、「売る」と言うより、「買っていただく」事の難しさを、改めて考えさせられた。どんなに良いものでも、相手のニーズに合わなければ全くの無意味な物になるが、購入するか否かの段階では、熱意や相手への思いやりも、とても大事だと、改めて痛感した。

 彼女には、今日の気持ちを持ち続けたまま、社会へ出て行ってもらいたいと願う。優秀な学生の将来は明るいものに違いないから、凡人の心配は不要だろうが・・・。
 

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック