満塁ホームラン

 小学生の時、振ったバットにたまたまボールが当たり、センターオーバーの3塁打になってしまったことは、鮮明な記憶として今も残っている。確か、長打はその一本だけのはずだから、忘れるわけがない。

 物心がついてからは、球技と言えばパチンコだけで、野球をやったことはない。

 仕事や日常生活で、少々気がつきにくいことにふと気がつき、もしも、そのことに気がつかなかった時との差が、とんでもなく大きくなる可能性があるときに、「あれは満塁ホームランだったな」などと表現することがあると思う。振り返ってみて、その手の満塁ホームランならば、1回だけ打ったことがある。

 数年前、母がインフルエンザの予防注射した時のこと。翌日に発熱、咳も出たため、横になっていた。その翌々日、今まで聞いたことが無い、弱々しい咳をしていることに気づいた。熱も昨日より若干高いし、痰の色もちょっと違う。何かが変わりつつあると直感的に思い、午後からの仕事を休み、遠方だったが当時かかりつけていた医院まで出向き診察を受けたところ、肺炎との診断を受けた。こっちは真っ青だったが、医師は「早く来て良かったですよ。紹介状を書きますから、このまま救急病院へ行ってください。」と言う。すぐに引き返し、地元の救急病院に着いたのは午後9時過ぎ。事情を話すと、すぐに血液検査をし、結果を確認すると点滴を始めた。それが終わり帰宅したのは深夜の1時前。翌日もう1回受診せよとのことだったので、予約なしでその病院へ行ったが、受け付けは8時半だったのに診察の番が回ってきたのは午後3時過ぎ。「その間に状況が変わってしまったらどうする?」と思ったが、母の容態は安定していたので、我慢した。担当の医師は母の胸に聴診器をあて、「薬を出しますから、これから2週間、1日3回飲んでください。もしも体調が悪く感じたら、すぐに来てください。」という。肺炎はただちに入院…と思っていた私は、「入院しなくて良いのでしょうか?」と医師に聞いたが、「これなら大丈夫でしょう。」とのことだった。とにかく、早く受診し、1回目の処置を施してもらったのが何より良かったようだ。もう1日遅ければもっと厄介になっていただろうし、2日遅かったら命にかかわっていたかもしれない。

 受診した2日後には咳も止まり熱も下がった。症状が治まってからは、体調の快復が目に見えた。2週間後の検診の際も、医師は初診時と同様、落ち着いた態度で、「体調が思わしくなかったら、いつでも来てください。」と言ってくれた。その言葉と母の快復がうれしくて、こみ上げてくるものをこらえるのがやっとだった。

 修理業に携わっている仕事柄、音や臭い、ちょっとした異変に気がつくことが多いと思っている。この時は、これが功を奏した。たまたま振ったバットではなく、やってきたボールの縫い目まで見通してバットを振り抜いた、人生で唯一、会心の満塁ホームランだった。
  

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 3

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
ナイス ナイス

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック